ヨーロッパとアフリカの間にあるジブラルタル海峡では、シャチによる襲撃が報告されている。2022年から始まったシャチによる小型ヨットへの攻撃により被害が発生。ひどく破壊されたヨットはえい航中に沈没するなどしている。
日本では、今年7月、福井県美浜町竹波の水晶浜海水浴場で、4人がイルカに噛まれたりぶつけられたりして肋骨を折る大けがをするといった事件が発生している。
ジブラルタル海峡で攻撃してきたシャチは、個体の特定ができているようだ。ひとつのグループは、大人のメス「ホワイトグラディス」と名付けられたリーダーに率いられたグループ。もうひとつは、3、4頭の若いオスのグループだ。「ホワイトグラディス」はかつて船の事故によって傷を負い、その復讐をしていて、若いオスたちはそれを真似していると考えられている。
一方、福井の事件は、一頭のオスのミナミバンドウイルカによるとみられている。イルカは攻撃というより遊んでいるという様子だという。しかし、ミナミバンドウイルカは、体長約2.7メートル、体重約290キロにもなる。人間にとっては脅威だ。けっして「かわいぃ」だけの存在ではない。イルカショーのイルカと野生のイルカを同一視してはいけない。
シャチの攻撃という事件から、最近読んだSF小説を思い出した。「深海のYrr(イール)」(フランク・シェッツィング著 早川書房:原題 Der Schwarm (群れ))という作品だ。大陸棚の海底を覆うメタンハイドレート氷を顎で掘り進む何百万匹のゴカイによってメタン氷の層が崩壊し、沿岸を津波が襲う。さらに、クジラによる船舶への攻撃によって深刻な人的被害が発生する。つぎにロブスターを宿主とした死に至る病原体による感染拡大。世界各地の海岸では猛毒を持つクラゲの発生。ニューヨークなどの大都会に病原体を運ぶ深海のカニが群れをなして上陸。など世界的な大パニックが発生、人類は絶滅の危機に。一連の事件の裏側には、深海底でうまれた人間にも勝る生命体の存在。という海洋冒険サスペンス巨編。
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シャチ
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イルカの群泳
海洋の生物については、知られていないことも多い。とくに深海探査は、まさに人類未踏の地への探検。研究が進んできて実態が少しずつ明らかになってはいるものの、地上の生物には猛毒となる硫化水素を栄養源にコロニーが生成されていること、高い水圧のなかで生息している多くの生物が確認されていることなど。さらには、最近の研究では、「熱水噴出孔」の下に未知の生態系が在ることがわかってきた。深海底の生態系には、地上とは異なる生態や未知の生物圏がありその実態は解き明かされていない。
人類未踏の地「深海底」の探査は、地上の生物誕生の謎を解くカギをもたらす有意な情報となるのだろう。深海の生物圏は、日本列島の周りには多くの海溝がある。そうした深海底の生物圏の知見が蓄積されることで多くの謎の解明が進む。宇宙に目を向けるだけでなく深海の探査も大切になる。
うむっさん