いずれも事業者の活動についての理念が謳われたものだが、「自利利他」という概念を指しているようだ。空海は、『それ釈教は浩瀚にして際なく、涯なし。一言にしてこれを弊せば、ただ二利にのみあり、常楽の果を期するのは自利なり。苦空の因んを済うは利他なり』と仏教は「自利利他」の二利に尽きるとしている。「自利」は、自身の永遠の安楽を望む心。「利他」について、最澄は『悪事を己れに向へ、好事を他に与へ、己れを忘れて他を利するは、慈悲の極みなり』と「忘己利他」ということを言っている。
「自利利他」とは、自分を慈しみ、自分と同じように他者も慈しむ。他者の悲しみを自分のことのように感じること。そして、「自利」と「利他」を別々に捉えるのではなく、巡り巡っていくものとして「自利利他」を解することになるのではないか。さらに、「他」は、人間だけに限らず自然や生物までに及びその実践がSDGsのような行動ということになるのだろうと浅学のコラム子は思える。
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自利他利
気になることがある、厚生労働省が 2019 年に公表した統計で、10 ~ 14歳の子どもの死因の第 1 位が「自殺」になっている。また、 15 ~ 24 歳の自殺率は先進国でワースト1というもの。さらに、統計では日本の若者の自尊感情が低いことが示されている。しかし、これは日本の“謙譲の心”が働いた結果が少なからぬ影響を与えているとも考えられるので、統計どおりに受け止めることには慎重さが必要だろう。
ただ、自身を幸せにする心が育まれていない若者が少なくないということは、大きな課題だ。日本の若者は、諸外国の若者と比べて、自国の社会に満足している者の割合が最も低いという統計もある。自分自身を幸せにしなければ他者への思いも成り立ちはしないだろう。社会全体のウェルビーイングを上げていくことが急務であることは間違いない。経済や福祉・教育といった全ての方策を総動員しなければならない。
『他人の不幸の上に自分の幸福を築いてはならない。他人の幸福の中にこそ、自分の幸福もあるのだ』これは、19世紀ロシア文学を代表する文豪トルストイの言葉。偉大な先達の言葉を私たちはいま一度心に刻んでいきたい。
うむっさん