ライター 千遥
紹興市・東湖の佇まい |
紹興のホテルは、日本のガイドブックにも載っている「銀泰大酒店」である。朝食付きで1泊198元であるが、前金として400元を支払った。日本人の感覚からすると2倍もの保証金
?を支払うのは少し抵抗があるが、これはどこも同じシステムだから仕方ない。また翌日の切符(紹興⇒上海)の切符の購入を依頼し、手数料として15元を渡した。とれた上海への列車の料金は46元だから、ずいぶんと高い手数料ともいえる。このホテルでは英語は通じたものの、日本語を理解できるフロントマンは一人もいなかった。
1泊するけれど、紹興での時間は限られている。荷物は元々肩掛けバッグのみだから、チェックインを終えると早々に街にでた。商店の前には正月目当ての品物が高く積まれ日本の歳末商戦となんら変わらない。少しでも人目を引くには音響効果は欠かせないようだ。ある靴屋では店頭に音楽隊を貼り付け、(=左の写真)ドラムをたたいて懸命な呼び込みをしていた。
まずは東湖を訪ねるべくバスに乗る。乗り換えなしで一発で到着した。ところが降りた付近は人家がまばらで、何ともうら悲しい風情なのである。観光地らしい華やかさが見受けられない。どこが入り口なのかも分からない。ウロウロしたあげく、何とか見つけた。(=左下の写真)
あらあら、人の姿が見えないな。でも、ここまできたら進むしかない。キョロキョロしながら歩いていくと道路の両側が歩道になっており、土産物店が連なっている。ときどき店の中を見物しながら歩き、突き当たったところに入場券の売り場があった。
単なる公園なのに、入るだけで料金は25元もする。入場券には、「紹興市文化旅行投資発展有限公司」発行と記載されている。運営を民間に移管しているということか。中国でも民営化を進めている一つの証である。さてさて、では入るとしようかと思ったちょうどそのときに、1台の観光バスが到着した。
これは日本人観光客に違いない、と察した私は皆が降りてくるのを、じっくりと眺めていた。ゾロゾロと降りてきたのは予想どおり、日本のお方たちだった。圧倒的に中高年のおばさんが多い。物好きな私は、折角の機会だからと、この団体さんの後に付いていくことにした。
話をきくと、京都付近の方たちとのことだった。日本人の添乗員男性一人と、現地中国人ガイドが男女一人ずつが付き添っている。私は皆のうしろでガイドの説明を聞いていた。というよりも説明は上の空で、付き添いの中国人ガイドとおしゃべりをしていた。
このあと皆はボートに乗って湖を一周することになった。3人ずつ乗り込む。私は部外者だから乗れない。料金表をみると、3人乗りで60元となっている。ひとりで乗っても同一料金である。それじゃあ、つまらない。ボートは止めようと思ったら、さきほどの中国人ガイドが、「自分は乗らないから、どうぞ乗って下さい」と私にいう。そして日本人添乗員に了解を求めた。もちろんOKである。
そんなことで、結局、私は一番最後のボートにタダで乗せてもらったのである。東湖は小さな湖である。一周しても40分程度だろうか。私を乗せた彼は湖岸を歩いていた。彼からみれば毎日のようにきているところだから、特別乗ることもない。だが、私にとっては一人でノコノコやってきて、見知らぬ中国人にお世話になったことは、忘れ得ぬ大切な思い出として残る。手元にある名刺探したら、その方は中国国際旅行社・日本部の「金 雨清(jin
yu qing)」さんであった。
京都のおばさん二人(=下段左の写真)と湖上からの景観を楽しむ。おばさんたちは賑やかだが、濃紺の湖はあくまでも静かに波をうっている。そそり立つ断崖絶壁や奇岩のトンネルをくぐり抜け、そして周辺の建物などを眺めているうちに、元の場所に到着した。
興味を引いたのは、この3人を乗せたボートが年老いた1人のおじさんによる、手と足を使った人力ボートだったことだ。お客は我々だけだったから、暇なおじさんたちは湖畔でたむろして腹ごしらえをしていた。彼らの食事が日本の弁当箱と同じように見えたのが妙に心に残っている。
どこへ行っても人の多い中国で、この紹興の湖ほど閑散とした光景はまったく初めてである。一般の中国人からみれば、ごくありふれた景観かも知れないし、また正月直前という時期でもある。
ボートから降りたあと、母子で営む近くの屋台で暖かい饅頭を買っていたら、団体の皆さんはバスとともに消えてしまった。無料で乗せてくれた彼に一言お礼を言えなかったのが悔やまれる。
マウスで写真に触れてみて....
こちらも写真が代わります......
また1人になってしまったので、再びバスに乗ってホテルとの中間地点まで戻る。紹興は落ち着いた街である。他の大都市のようなけばけばしさは無い。しかしスーパーやデパートは、それなりに趣向を凝らした正月の装いを演出する。日本とはちょっと違うところがある。似て非なるところが面白い。
夕暮れになると流石に腹も減ってくる。トコトコ歩きながら適当な店を探す。ひとりで大きな店に入ると、とても食べ切れないから敬遠し小粒な店に入る。ビールを飲み、水餃子にチャーハンだ。これで満腹、というより食べすぎだ。では歩かねばならない。それでまた夜の散策に出かける。表どおりは面白くないから、裏道にも入り込む。日本なら問題はなさそうだが、ここではどうなんだろうか。多少は不安感も持ちながらも、それでも探索はつづける。
薄暗い路地に小さな飲み屋らしきものがあるのを確認した。でも今日は止めよう。明日の昼間にたずねることにした。
ホテルの近くまで行ったら、道路いっぱいに夜店が出ている。赤や黄色など原色の品物が多い。どうも当方の趣味には合わぬものが多くて購買意欲は沸かない。でも面白いから、あちこち見て回る。ひとわたり見学すると、同じような品物を数軒で売っていることに気づいた。小学生や中学生ほどの子どもたちも、一人前に店を構えて売っている。向こうでは安く売っているぞ、といってもニコニコしていて簡単にはまけない。かわいい子どもにお年玉をあげるつもりで、中国独特の鉛筆をたくさん買いこんでしまった。リンゴのように頬の赤いかわいい娘だったなあ。
中国特有の商売を極端にいうと、隣りの店と2倍も違うことがよくある。それでも全然平気で売っているのだ。ボーッとしていると、高値なものを掴まされてしまうというわけだ。この辺が私には理解に苦しむところである。日本人なら、商売敵がいくらで売るか、よく調べてから値札をつける。ここではそんなこと全く意に介さない。そういう意味では、実におおらかで面白い民族というほかない。(つづく)
紹興市の夜店どおり |