新上海紀行Part1

ライター 千遥

江蘇省無錫市 太湖仙島の光景


 2か月ぶりに、再び中国旅行記を書きはじめることにした。このたびも、訪問したところは上海のみに止まらない。上海を拠点として紹興から無錫、そして南京とまわってきた。このたびのベースは私の単独旅行である。とは言うものの、やはり在上海の知人や1年前の短期語学留学時の老師(先生)には、大いにお世話になった。
 私にとって、今回の中国ひとり旅は初めてである。勝手気ままな旅は、私を非日常の世界に送り込む。そしてそこから、また新しい世界が開ける。よく、「帰るところがあるから、旅は楽しいのだ」といわれる。帰るところがなければ放浪の旅になってしまう。このたびの私の帰るところは上海であった。そこから出発する先々での出会いが、私に多くの未知の世界を教えてくれる。それが私を旅に駆り立てる魅力なのであろうか.....................。
 
 ある時、日中友好新聞のコラム、「漢語の散歩道」を読んでいたら面白いことが書いてあった。著者は立命館大学の筧文生名誉教授である。
 著者のかつての教え子から電話があったときの模様が記されている。そのさわりの部分をご紹介すると、.....こうなる。

 「先生 ! 偶然ある人から、夜中にホームを抜け出してハイカイする老人のことを、中国語で<逍遥自在>というって聞いたんです」
  「これって、なかなかいい言葉だと思いませんか」
 「へえー、<逍遥自在>という言葉を<ハイカイ老人>の意味に使うのは初耳ですね」
 「そんなこと言ってないで調べて下さいよ」

 というわけで、さっそく成語辞典を引いてみたそうだ。<逍遥自在>という語の出典は、『荘子』譲王篇に出てくる「天地の間に逍遥して、心意自得す」から来ていることがわかった。いにしえの聖天子舜から天下を譲ると言われた隠者が、答えた言葉だったのである。

 「この世でなにものにもとらわれずに勝手きままに暮らしているのに、何を好き好んでそんな面倒な仕事を引き受けなければならないんだ」

 従って、中国語でボケ老人を意味するものではない。今でも、<逍遥自在>という言葉は、世間から超越して、好きなように暮らすことだという。これで、あの文豪・坪内逍遥先生も、さぞかし安心したことだろうなぁ。そんなことで、私は中国語の解釈するところに従い、これからも意のままに自在に逍遥してこようと思う。
 
 感じたまま、見たままを、そのまま紀行文とするのが私の信条である。創作(作り話)はしないことにしている。皆さまのご批判やご意見も大歓迎!! ではそろそろ始めましょう。

 前年の上海短期語学留学から1年ほど経った年の暮れ、オーストラリアの旅から帰ったばかりの娘から意外なプレゼントをもらった。3人娘のうち、末の娘だけが未だにわが家に居候している。とても、とてもオヤジに贈り物なんか出来る状態には無いはずなのだが..........。 娘は....
 「マイレージを2万マイルあげるよ」という。「何だ、それは〜」。よく聞いたら上海位なら、タダで行けるよ」との話だった。娘の身分はよく言えば好きな時に仕事をする優雅な商売だが、実態は定職につけないために派遣会社に登録して仕事を世話してもらう日雇い(今は死語か)なのだ。それゆえ心より「感謝!!感謝!!」して、有難くいただくことにした。

そうかぁ、飛行機代がタダかぁ。それなら行ってくるぞー。正月を目前に、どう過ごすか特に当てもなかったのに、話を聞いたら眠っていた意欲が急に目覚めた。かねがね中国の正月(春節)に関心のあった私は、早速日程の段取りを始めた。でも中国通の友人は、春節には大勢の中国人が故郷へ移動するから、電車にも乗れないぞ、と忠告を始める。

 「そんな〜折角タダで行けるのに、この機会を見逃すわけにいくもんか」ということで、上海駐在の朋友にメールで問いかけてみた。それと共に、前年に教えていただいた上海水産大学の先生にも問合せすることにした。メールというものは便利なものである。有難いことにいつでも、どこへでも発信し連絡がとれる。

 お二人の返信によって、私の懸念は完全に吹っ切れた。朋友からは「お待ちしていま〜す。日程が決まったら、連絡ください。宿泊先も予約しておきますよ」との嬉しいお言葉である。一方老師(先生)からも、「1年ぶりの中国訪問ですね。大晦日には、わが家に来て下さい。宿もわが家の近くにとります。安いですよ」とのメールが着信した。
 マイレージのポイントはユナイテッド航空である。全日空とも業務提携しているので、フライトは全日空を利用することにした。春節を目指して日本に滞在する中国人も一斉に帰郷するから、彼らと合わぬ日にちは何時なのか、また早めに日程を決めることが必要である。正月はのんびりしていた私も、急に慌しくなった。
 
 これまでツアー会社や格安航空券に頼っていたのが、すべて自分でやらねばならなくなったのである。このとき初めて1人で行く旅行とは、結構面倒なことが分った。搭乗する時間を決めねばならない。その航空券を自分で引き取りにいかねばならないのだ。送付してもくれるが、日にちは切迫している。
 
 もっと面倒なことがあるのを忘れていた。中国入国にはビザが必要である。このビザは、ツアー旅行ならば全て旅行代理店が代行してくれる。格安航空券の場合も、購入した先で手配してくれるから問題は特に無い。
 





〜写真はユナイテッド航空のホームページから〜
 
 ところが、マイレージ利用の場合は航空券とビザは全く切り離されている。航空券発行会社は、搭乗券のみしか手配してくれない。これまで全てを任せていた者が、全てを自ら行なうことになってしまった。ビザは、自分で中国大使館にいけば3,000円である。だが、話に聞くと、直ぐに発給してくれないという。時間は限られている。確実に手元に届かなければ予定した航空機に搭乗することが出来なくなってしまう。

 そこで登場したのが中国人によるビザ取得代行業者である。今回の中国ひとり旅実施に当たっては、中国人の業者が巧みにビザ商売を行なっていることが分った。インターネットを通じて調べてみると、これら業者の殆どは中国人が代表者であった。ツアーの場合はビザ代金は概ね5,000円程度であるが、個人の場合は10,000円が相場であることも分った。

 バタバタした数日を経て、東京・銀座周辺で航空券とビザを同時に手にしたのは出発2日前のことだった。なにはともあれ、タダの飛行機に乗るために、さまざまな貴重でかつ嬉しい?経験をさせてもらったことになる。(つづく)