中国吉林事情(1)


 会員の方から、2013年5月中国の吉林省に滞在中の現地からレポートを頂きましたので『中国吉林事情(1)』、『中国吉林事情(2)』として掲載をさせていただきました。

以下は、現地のレポートを書いていただくに当たり、事前に打ち合わせた内容ですが、それにお応え頂く内容のレポートとなっています。

 S.K:Facebookなどに投稿される記事の中で、最近面白い投稿が目につきました。野田内閣の時に日本政府が尖閣列島の国有化宣言以来、中国政府はこの尖閣列島国有化に対して猛烈に反発、そしてそれに同調する多くの中国国民もいる中で、比較的吉林省の人たちはそれほど反日的でないと書いてありましたが、本当でしょうか?今でも吉林省から日本に留学する中国の学生も多いよ うですが、日本に対して好意的な感情を持つ人が多い様です。(TV等の報道から) そんな折り、幸いにもR.Iさんから、最近の中国事情を現地からレポートして下さるとの事大変うれしく思います。

 R.I:中国テレビでは咋年の衆議院選後、確信したように安 倍ゾウさんをはじめとする日本の右傾化をずーと徹底して批判しています。
だから中国人の嫌日感情は高まりこそすれ薄れることは今のところ考えられません。私は日本人なので決して気分はよくありませんが、批判はある意味正しく、止むをえないと感じています。



 1 吉林市とはどんな所ですか?

 中国東北三省の吉林省・遼寧省の位置的には真ん中の吉林省、その又中部にあり、中国歴史上最後の王朝清朝の支配民族満洲族発生の地が吉林市です。
"吉林"は満州語で"吉林烏拉(ジーリンウラ": 「川に沿った町」という意味です。
中国は56の多民族国家、吉林市で一番多いのが漢民族、次いで満洲族、朝鮮族回族、蒙古族、回族だそうですが、見た目には違いはわかりません。
 吉林省の現在の省都は昔は新京と呼ばれた長春市ですが、辛亥革命後省がおかれた時の省都は吉林でした。二戦直後は一時省都でもあったように歴史は古い吉林市で す。「二戦」(ここでは便宜上世界第二次大戦と日中戦争を指します)


吉林大街(おお通り) 杏の街路樹 焼き肉レストランの席待ちをする人々


 2 吉林の人の対日感情はどうですか?釣魚島(尖閣列島)騒動以後はどうですか?

 吉林の人はこれまでは概して親切でした。一般の人は日本人個人に対しては大概の人はフレンドリーです。どこにでもいるように国粋的な人もいるようで、咋年の騒動 の時は通っている大学の学院長、副学院長自ら4人の日本人に注意するよう話されました。「変なやつはいる筈だから」と。吉林のタクシーの運転手は女性の運転手もいますがこぞって紳士的で親切ですが、日本人は乗せないと言われ車から降ろされた日本人の知人がいました。私はそのような経験はありませんが、冗談で日本人は嫌 いだよと、言いながら日本のことを聴いてきた運転手もいました。

 吉林にいると日本語を話せる人と接する機会が結構多くあり、驚くことが多いです。吉林には日本人が少ないのに日本に関心が高い人が多いことは私には全く予想外で した。
 二戦終戦(1945年)時で二万人の日本人が吉林にいたそうですが、吉林が戦場にならなかったこと、二戦時も比較的平穏だった。私の知った範囲では当時軍人以外の 人、満洲族、漢族、朝鮮族、蒙古族、日本人である大和民族の関係が五族協和教育が進み、結果として良好だったようです。そのようなわけで悲惨な事件発生がほとん どなかった地域のようです。しかし豊満ダム建設時の犠牲者碑(死体が埋められた)が中心市街地から外れた辺鄙な所にあります。愛国教育基地(記念館)ではありますが訪れる人は少ないようです。

 咋年の夏に釣魚島騒動が顕在化し、吉林でも9月に日本への反対集会がネットで呼びかけられたそうですが、実現しなかったようです。しかし三輪車や乗用車に中国国 旗と「釣魚島は中国のものだ」、「日本は出て行け」、「私は日本製品を買わない」などと書かれた示威行動が至る所で見られました。傷つけられるのを防止するため
でしょう、日本車にそれが多くみられました。

 咋年12月の日本の衆議院選挙以降は安倍政権と石原、橋下両氏の言動に厳しい批判が「釣魚島騒動」と合わせTVで毎日のように繰り広げられています。
 どんな外国のニュースより圧倒的に多い、と言えます。

 私がこれまで接した人からは一度も「釣魚島騒動」で個人的に責められたことはありません。私が看る限り、釣魚島は中国の島であることを中国人は誰も疑っていな いし、日本政府の誤りであると確信しています。つまり中国の人にしてみれば「釣魚島騒動」も二戦前からの「日本による侵略の歴史」も、日本政府と日本の政治指導者(含日本軍の指導者)が犯した錯誤に他ならないのです。従って国会議員による戦犯を祭っている靖国神社参拝についても日本の政治指導者が他国を侵略した二戦へ の歴史的反省を無視した行為でしかないものなのです。

 中国のTVは中国政府、つまり中国共産党に指導されていますので、日本の政府、安倍自民党政権や石原、橋本両代表の「日本維新の会」を執拗に批判するのは、それだけ日本の右傾化を危険視し警戒していることだと思います。
 これまで吉林で接した人々と私の共通した見解は「私たち一般人の問題ではない、政府間の問題である」、「島問題で争うのは全くつまらない」、「私たちは楽しく付き合える友人だ」といった所です。

 
 3 吉林の良い所と欠点は何ですか?

 私の主観的な見方でしょうが、これまで行った中国の他の地方都市より吉林は @.人が穏やか A.空気がきれい B.水が豊富できれい C景色が良い D.地震や洪水など災害 がほとんど無い E.物価が安い F治安が良い G.雰囲気が都会化されていない(田舎っぽい、ことでもありますが) H.際立った観光地が無いので比較的静か(マイナス 面でもありますが) I.市内はバスが縦横に走っていて移動に便利 J.夏が涼しい、などです。

 欠点は何よりも@冬が寒いことです。12月から1月にかけては最低気温がマイナス20度から35度位までになります。都市の住宅には暖かい湯が暖房として送られます ので室内はいつも暖かいのですが屋外は路面が凍るので歩行に注意が必要です。主要道路は除雪されますが、車もスリップするので危険です。

 A都市として発展速度が遅いとも言え、日本語教師として日本から来た人はこぞって「遊ぶ所がなくつまらない」と言う人が多かったのですが、私にとっては彼らの言 うことが未だに理解できていません。何処で何をして遊びたいのか尋ねると、お茶を飲んだり食べたり見たり聞いたりを街中にそれを求めていたようでした。日本の都 市を知る若者にとって吉林は退屈な都市なのかもしれません。しかし高層ビルの建設は郊外に広がりながら進んでおり、馬やロバに引かせる荷車も良く見かけますが乗用車は確実に増えており、通勤時刻と土日の幹線道路の混みようは度を増しています。また街の中心にあるデパートの高級品の時計、皮服や宝石、化粧品、靴は豊富に あり、客層も私でさえ金持ちだと一目見て判る人が多くなっています。

 B環境保護とモラルの市民意識が未だ十分醸成されていないように感じます。
唾を吐くのとゴミのポイ捨て行為が減っていません。バスの乗車で並ぶことをしませんし、車も混むと我先に割り込んだり、対向車線を走ろうとして更に混雑させるこ とが多く、マナーの教育不足を感じます。何処ででも携帯電話で大声で話したり、音楽を流します。

*『中国吉林事情(2)』に続く