今月のコラム 2015年11月         
JR北海道――新幹線が来春開業 消える在来線も
廃線予定の留萌本線の留萌・増毛区間に乗りました
 夏休み最中の8月、朝日新聞にこんな記事が載っていました。
  見出しは「廃線の予感にファン集う夏 北海道の駅、健さんロケ地も」というものでした。

  ★記事の要旨は「乗り降りする客もまばらだったJR北海道の留萌(るもい)本線の駅に、来年にも消える可能性がある鉄路を惜しみ、鉄道ファンが詰めかけている。
 映画の舞台にもなった駅は、夏休みに入ってさらににぎわう。
 車窓に日本海を望んで走る留萌線の終着駅の増毛(ましけ)駅(増毛町)。ふだんは閑散としている1両編成のディーゼルカーから、休日の昼どきともなれば30~40人が降りてくる。車やバスでやってきた観光客も多く、列車が到着すると、一斉にカメラを構える姿も目立つ。」
 
  コラム筆者も10月下旬、留萌駅―増毛駅間の列車に乗るツアーがあったので便乗してきました。
 留萌町は北島三郎の歌う「風雪流れ旅」に出てくる北海道の日本海側の街です。そして増毛駅は、高倉健さんの映画『駅 STATION』のロケ地になった街です。いつか訪れてみたい念願が実現しました。

  留萌本線は、函館本線の途中駅の深川駅から留萌市の留萌駅を経て、増毛郡増毛町の増毛駅を結ぶ全長66.8kmのJR北海道の鉄道線です。
 開業は1910年11月、全通したのは1921年11月、民営化になったのは1987年4月1日で全線非電化区間です。
 駅の数は20駅あって、その末端部分の留萌駅~増毛駅間16.7km(途中駅は瀬越、礼受、阿分、信砂、舎熊、朱文別、箸別、増毛)が2016年度中に廃止するとJR北海道が発表しています。
  左の地図の日本海に沿った区間です。
 廃止の理由は「乗客の激減」「大幅な赤字」「災害」で年間1億6000万円以上の赤字が発生していると説明しています。
  2016年3月26日には、北海道新幹線の新青森~新函館北斗間が開業します。さらにその先の札幌までの伸延が決まっています。新幹線が北海道まで延びる「光の部分」と廃止が予定される在来線の「影の部分」が交差する。
留萌駅の外観 留萌駅のホーム 留萌駅のホームの風景
留萌駅の外観 留萌駅のホーム 留萌駅のホームの風景
記念に買った切符 ホームにジーゼルカーが入ってきました 車内は満席状態でした
記念に買った切符 ホームにジーゼルカーが入ってきました 車内は満席状態でした
 留萌駅で乗車用と記念用の切符を買って(360円)、終点の増毛駅は無人駅だというので「増毛駅」の入場券も記念に買いました。留萌駅待合所にはレトロな往時の写真が展示されていました。改札口には50人ほどの列ができていました。12時14分発の増毛行きの一両列車が入ってきました。
 車内は深川方面から乗ってきた人たちで空いている席はありません。私は辛うじて右側席(進行海側)の通路寄りの席を確保できました。
留萌駅を出ると日本海が見えてきます 日本海の荒波が打ち寄せています 途中駅から乗る人はいません
留萌駅を出ると日本海が見えてきます 日本海の荒波が打ち寄せています 途中駅から乗る人はいません
 運転席の後ろの空間にはカメラを構えた「撮り鉄」さんが大勢います。窓側の青年もしきりにメモを取ったり、写真を撮っています。コラム筆者も隙を見て何枚か撮りましたが、ちょうど好くシャッター・チャンスが合いません。
 かつてはニシンの群れで海面の色が変わったと言われた海、今は静かなブルーの海で、ときたま舟屋跡らしき小屋が見られます。途中駅は無人駅で乗る人もなく、停車時間も秒単位で発車します。ホームに出て写真を撮る時間は全くありません。
阿分駅です。シャッターが合いません 舎熊駅 留萌駅に近付き、港湾施設が見えてきました
港です 漁船が入っています 増毛駅のホームが見えてきました
 終着駅増毛に着きました。到着列車と降車客を迎える撮影班やカメラマンが待ち構えていました。
 コラム筆者も急いで降りて撮影に加わりました。
  駅舎の中にはこの駅を物語る数々の写真やポスターが貼られています。

  
電車が着くと目に入った終着駅の表示 駅の待合室の食品売店 増毛駅舎の表側
電車が着くと目に入った終着駅の表示 駅の待合室の食品売店 増毛駅舎の表側
折り返し電車が出た後のホームには誰もいない レールの終結を示すポールが立っている ガイドさんに増毛について聞く
折り返し電車が出た後のホームには誰もいない レールの終結を示すポールが立っている ガイドさんに増毛について聞く
 駅前は割りと広く、大きな築83年の木造の3階建ての古い旅館が立っています。
 ボランティア・ガイドさんの説明では2階、3階は危険なため立ち入り禁止となっているという。
 その隣りが朝日新聞の記事にもある高倉健さん主演の映画『駅 STATION』のロケになった『風待食堂』です。
 観光案内所になって中には建さんの映画写真が並んでいます。

   ★朝日新聞の記事は次のように続きます。要旨は「増毛駅は、昨年11月に亡くなった俳優の高倉健さん主演の映画『駅 STATION』(1981年)のロケ地としても知られる。
  昭和初期で時が止まったかのような街並みの一角、駅の向かいにある建物を訪れた人は今年、7月中旬で1万人を超えた。映画では『風待食堂』として登場し、いまは観光案内所になっている。過去最高だった昨年より1カ月早く、夏休み初めの3連休や8月の休日の多い日で約400人が訪れている。」

 ガイドさんとともに1時間ほど街歩きをしました。増毛町の歴史は古く、町内には北海道遺産に選定されたレトロな建物が海を背にして立ち並んでいます。そのほとんどがかつて、ニシン漁の豊漁で栄えてころの明治~昭和初期の建物遺産です。
駅の目の前にある木造三階建て旅館・富田屋 映画「駅 STATION」に登場した風待食堂 現在は観光案内所になっていました
駅の目の前にある木造三階建て旅館・富田屋 映画「駅 STATION」に登場した風待食堂 現在は観光案内所になっていました
 高倉健(英次)は警察官を辞する決意を固め、正月の帰省のため、雄冬への連絡船の出る増毛駅に降りた、暮れも押し詰まった30日、赤提灯の灯る小さな居酒屋が目の前にあった、倍賞千恵子(桐子)の店。テレビには八代亜紀の「舟唄」が流れている。
「この唄好きなの、わたし」と桐子は咳いた。孤独の影を背負う桐子に惹かれる英次。大晦日、二人は留萌の映画館で映画を見た。雪道を肩を寄せ合って歩く二人‥‥。正月、衝撃のラストを迎える。
中には映画のスチール写真がいっぱい 映画「駅」のテレビが放映されていた
 ニシン漁の最盛期には4万トン(2億2000匹)の漁獲があったという。獲れたニシンは食料用ではなく、肥料の鰊粕(ニシンかす)として、農家の主要な肥料となって全国に出荷されていたという。
 最盛期に獲れた鰊粕はコメと同じ石高にすると100万石に相当すると言われ、北前船が寄る港として栄え、裕福な網元には小説家や文化人が寄食していたという。鰊=鯡(魚に非ず)という字もあります。
 今では高価になっている昆布巻きニシンやニシンそばに入ってくる身欠ニシン、数の子として食料にもなっています。
 昭和27年からニシンが来なくなり、30年には全く獲れなくなり、増毛はニシンと共に栄え、ニシンが姿を消すつともに衰退した。
マンホールに甘エビとサクランボの絵 甘エビ丼とエゾあわび 北限の果樹園で栽培する洋梨 記念の増毛駅の入場券
マンホールに甘エビとサクランボの絵 甘エビ丼とエゾあわび 北限の果樹園で栽培する洋梨 記念の増毛駅の入場券
  現在もエビの漁獲高が日本一であり、アマエビやタコなどの水揚げも多く、新鮮なエビが戴ける街です。ツアーご一行も「甘エビ丼とエゾあわび」の昼食になりました。街を歩くとマンホールの蓋にもエビとサクランボの模様が付いていました。
 また暑寒別岳からの伏流水を利用して酒造も行われており、明治時代からある國稀酒造は日本最北にある造り酒屋である。
 暑寒別岳の裾野には広がる果樹園は最北端のフルーツの郷としても、観光に力を入れているようです。サクランボ、もも、りんご、西洋梨などが収穫されています。
旧商家丸一本間家 実際に使われた鰊船 鰊を入れて背負った木のモッコ
旧商家丸一本間家国指定の重要文化財 実際に使われた鰊船 鰊を入れて背負った木のモッコ
明治15年に創業した北限の蔵元・國稀酒造 暑寒別岳の伏流水で造られた「國稀」 暑寒別岳の高山植物群(観光案内から)
明治15年に創業した北限の蔵元・國稀酒造 暑寒別岳の伏流水で造られた「國稀」 暑寒別岳の高山植物群(観光案内から)
 現在は車の時代で北海道の通行困難な海岸線はトンネルが整備されつつあるというが、観光客にとっては留萌・増毛間の線路がなくなるということは、この街がますます遠い街になってしまう。
  留萌・増毛間が廃線になればバスか車ということになるでしょう。ニシンも消えて、今度は観光客も来れなくなってしまうのでしょうか。新幹線の速さと便利さはいいことですが、「不便でなかなか行けない」ことが、価値を上げることになるといいですね。
 ちなみに留萌線で増毛までは、新千歳空港から最短でも3時間33分、5,930円。来春新幹線が開通する函館からは7時間、12,000円です。
  ★コラム筆者は「乗り鉄」「撮り鉄」「録り鉄」「レールお宅」「鉄子」など、自ら動き回るマニアではありません。しかし汽車を利用する旅行記や紀行文学には関心を持っていました。
 中でも鉄道紀行作家・宮脇俊三さん(1926~2003、紀行作家・元中央公論社役員)のJRの乗り継ぎ作品は好きで、全部読みました。「最長片道切符の旅」「終着駅は始発駅」「終着駅へ行ってきます」などは、洒脱な文章で終着駅や無人駅の佇まいを簡潔に描いて魅せます。「ああ、行って見たいな」と思う光景ばかりでした。そのうちの一つが今回の「増毛駅」でした。
 宮脇さんの紀行見聞記を読んでいるときは、その駅に行ったような気分になっていました。(写真左)
 あえて言えばコラム筆者は「読み鉄」ということでしょうか
 
今月のコラム担当 Y‐Takeuchi