2015年5月 今月のコラム

「自治体機能」低下につながる投票率低下

2015年 統一地方議会選挙が終わりました


 新しい鎌ケ谷市議会が構成されました。
 ふだん私たちは「県政」あるいは「市政」の基盤となる「地方議会」を、生活の営みの中で意識したこと、あるいは意識させられたことってあるでしょうか。特別な社会活動や職業に携わっていない限り余りありませんね。第一、私は鎌ケ谷市から選出されていた県議の名前さえ知りませんでした。今回はこのコラムを綴る必要があって意識して関心を持ちました。
 国政に関わる国会議員の名前は、良くも悪くも新聞、テレビ、週刊誌で知ることが出来ます。しかし県政・市政に関わっている議員は積極支持者や利害関係者でない限り、名前おろか、何をやっているかさえ分かりません。また、新聞、テレビ等で日常的に報道されることは、ほとんどありません。裏を返せば、マスコミで報道に値するニュースが地方議会には無いということでしょう。
 唯一、身近に地方議会の首長・議員が姿を現すのが今回の地方選挙でした。私たちはその首長・議員を選択する権利を有しています。国の旗振りで始まっている「地方創生」にどのように地方自治体は「チエを出し」地域振興に応えていくのか、見守っていかなければなりません。それは私たち地域住民にも問われている課題だといえます。
●ますます低下する鎌ケ谷市議会議員選挙の投票率
 鎌ケ谷市議会議員選挙の投票率の低下が止まりません。2003年に50%を切ってから、過去3回とも選挙の度に下がり続けて、今回は43.52%と最低を更新しました。当日の有権者総数87,827人のうち39,652人しか投票所に足を運びませんでした。いろいろ事情があったにしても、半数以上の市民は市議会議員の選択を放棄しました。
 なぜ、投票に行かない人が増えるのでしょうか。
 市民生活にどのような役割を果たしているか良く分からない市議会や、選挙のときだけ現れる議員側に問題があるにしても、投票権を行使しない有権者にも責任があるのではないでしょうか。
 低投票率が続けば議員の質は低下し、市議会は一層沈滞化するだけです。そして、住民の関心もさらに薄れていくでしょう。無関心の恐ろしいところは、自分たちにしっぺ返しが戻ってくることです。有権者たちが気合を入れて選挙で意思表示をしていかないと、自治の機能を劣化させます。自分たちの「生活を守り」「住む街を良くする」ためには、選挙で良質な市会議員を選ぶことです。4年に一度の貴重な機会を大切にしたいものですね。
●地方議会は「学芸会だ」と言われているが‥‥
 自治省の元官僚で鳥取県知事を勤めたあと、総務大臣を歴任した慶応大法学部教授の片山善博さんが「地方議会は学芸会」の様であり、「八百長」だと言って物議をかもしたことがあります。
 「一見、真剣勝負と見える議場での首長と議員のやりとりが、実はシナリオ通りのさる芝居」に過ぎないという意味です。「八百長」と言うのは議会での審議以前に、結論が決められていて、真剣に議論している様に見せかけているに過ぎないと言うことです。また議員の中には質問がまとまらず、行政のOBが代筆したものを読み上げるだけ、と言うケースもあるそうです。
 そして取材して報道する立場のマスコミ記者も、そのシナリオを事前に資料配布されていて、それを記事化しているだけで「学芸会」の片棒を担いでいるのが現実だという。鎌ケ谷市がそうだと言っているわけではありません。岩波書店「世界」4月号「片山善博の日本を診る」に詳しく載っています。同誌5月号にも「真の地方再生とは」と題した片山氏と小田切徳美氏(明冶大学教授)との対談企画も載っています。
 昨年の5月「日本創成会議」の「人口減少問題検討分科会(座長・増田寛也元総務相)」が発表した<2040年には、推計対象の全国約1800市町村のうち523では人口が1万人未満となって消滅するおそれがある――「消滅可能性都市」>を討議のベースに、地方自治体が抱えるさまざまな課題を検証し提言をしています。
 当選された市議の皆さん、行政に関わる職員の皆さんには、ぜひ目を通していただきたい論考です。
 中央図書館に行けば読めます。
●鎌ケ谷市会議員選挙――定数24に29人が立候、共産が2議席、維新も初めて議席
 2015年春の統一地方選、24の定数に29人が立候補した鎌ケ谷市の市議会議員選挙結果が出ました。共産党が2議席を確保しました。安倍政権の推進するアベノミクスでは「生活は良くならない」、集団的自衛権行使は「日本を危なくする」と国政批判を前面に出し、地域から「暮らしと平和を守る」重要さを主張したことが、市民の支持につながったのでしょう。県内の他の市議選でも共産党が議席を伸ばし、浦安市で一人次点になった以外、全員当選しています。軒並み投票率が下がった中で意識ある票が共産党に集まった結果と言えるでしょう。
 その他、維新が初の議席を得ました。1議席あった民主も2位当選、大健闘ですね。社民も手堅い支持で1議席を守りました。無所属の女性新人も当選を果たしました。自民1、公明5は前回と同じでした。無所属は新人女性を含め13人でした。当選回数では8期目が2人、7期目が2人、6期目が3人、5期目が1人と、20年以上も市議会の椅子に座り続ける議員が3分の1を占めます。「新鮮力市議会」への新しい風として、無所属の高齢3議員に代わって当選した共産、維新、無所属女性の各新人に期待したいものです。
●「予算を伴う条例案の提出は議会側ができない」のか
 自治体の条例(立法)については、首長の提案が専決事項で、「予算を伴う条例案の提出は議会からはできない」(地方自治法第222条)。なぜなら議員の発議によって「住民条例等」が制定されると、自治体が財政上の負担を負う事になり、財政の計画的・健全な運営を阻害することになるので、議員による条例等の議会への提出について規制を加えているものとされています。
 地方議会が自ら提案して定める条例は通常、議員の報酬や定数、運営ルールに関わるものとなっています。実際、この3年間、鎌が谷市議会がで審議した議員の発議案は7本で、委員会条例の改正とか、国への請願が大半を占めています。唯一毛色の変わっている発議は岩波議員辞職勧告に関する決議案があります。条例修正案など財源・予算を伴うものはありませんでした。これまで全国的に、市政に関する条例の大多数は首長が提案し議会が審議し、承認・可決して制定されることが慣行とされてきました。しかし最近は予算の伴う議員発議も実現している県もあるようです。
 今回の「選挙公報」で”眠った市会をたたき起こせ”とか、配布資料に”だんまり議会”とかの表現がありました。市議会が眠っているとは思えませんが、市長発議の条例案にときには少数者の反対はあっても、「原案修正なし全会一致で可決」が慣例となっているのが現実です。これでは、市議会が何のためのチェック機関なのかと言えます。
 新しい議員たちがこれらの慣例を打破し、市議会が住民の要望をくみ上げ、「地方創生、鎌ケ谷の活性化」に関わって「活きた」ものとなり得るのか見守っていきたいものです。
●千葉県議会選挙・鎌ケ谷市(定数2、立候補3、有権者数87,982人、確定投票率34.40%)
 鎌ケ谷市の県議会議員選挙は、大方の予想通りの結果になりました。目立ったことは、自民党の当選者が入れ替わったことくらいです。市議会議員を7期28年も勤めてきた70歳の長老がいま何故、4期勤めた現職に代わって新人として県政に関わろうとしたのか、配布されたチラシ、選挙公報を見ても分かりません。公報によれば「地方創生”オンリーワンのまち”実現」を謳っていますが、道路交通・生活環境整備が中心になっていて、何を「オンリーワン」とするかが見えません。他の二人の公約(選挙公報)を見ても、国の主要施策となっている「地方創生」にどう関わるのかという魅力的な提案はありませんでした。
 選択する側の住民にとっても結果は想定され、面白くない選挙戦でした。投票率は34・40%でした(前回比1.72%減)。3候補とも公約の違いはほとんどなく、誰が当選しても県政が鎌ケ谷市民に響くものは何もありませんでした。落選された候補が特別劣っていたわけではなく、民主党という”不信政党”の所属だったことで割を食ったと言えなくもありません。全国的にも民主党の氷河期が続いています。
●今回の選挙結果を前回(2011年)の結果と比較してみました(候補者名は省略)。
・自民党(当選、新人、70歳)11,827(39.8%)候補者変更←2011年(当選、4期、59歳)13,370(42.6%)
・無所属(当選、2期、67歳)10,003(33.7%)同一候補者←2011年(当選、新人、63歳)10,519(33.5%)
・民主党(落選、新人、55歳) 7,851(26.5%)候補者変更←2011年(落選、1期、45歳) 7,504(23.9%)
 数字を比較して見ますと、全国的に自民党が堅調に推移している中で、鎌ケ谷市では自民票が得票数・率とも減らしています。候補者変更による後遺症とも考えられます。無所属の同一候補はわずかに減りましたが、投票率のマイナス分でしょうか。民主党も候補者は変わりましたが投票率が減った中で票数・率とも唯一増やしました。現状の民主党逆風の中で健闘と言えるでしょう。
●千葉県議会議員選挙、18選挙区で24人が無投票当選。多選議員も多く
 全県的には、46選挙区(定数95)のうち3分の1を超える18選挙区で24人が無投票当選しました。無投票当選の新人議員も3人います。これらの選挙区の有権者は、投票の機会もありませんでした。無投票で選ばれた議員は法的正当性はあるでしょうが、政治的には誰からも支持を受けていなで4年間、県政に携わることになります。
 また、同一選挙区で20年以上30年も議席を維持(守る)多選議員も多く、県議会が「いつもの方々」が幅を利かすものになっていないでしょうか。今回の当選者でも最高は8期目(2人)で、以下7期目(2人)、6期目(10人)です。無投票選挙区には現職の多選議員が圧倒的に多く、中には6期目、7期目の議員も居ます。20数年にわたり議席の独占を許す選挙区風土が不思議です。
 そんな中でも、我孫子市選挙区から初当選した水野友貴さん(32歳)は女性最年少で完全無所属です。政党や組織の支援を受けずにSNSを活用して、「女性の立場から新しい風を届けたい」と訴えて、無党派層の支持を集めて当選を果たしました。今後はSNS利用による県政の「見える化」を期待できるでしょう。
●投票率の低下に拍車。1票の権利を放棄する危険を自覚しよう
 国政選挙では「一票の格差」裁判で有権者が投じる票の価値(一票の重み)について、憲法違反の判決が続いています。今回の地方選挙においては、その価値を自ら放棄して投票しなかった有権者の数が過去最高になりました。41道府県議選のうち38道府県が過去最低の投票率となっています。しかも50%を割る選挙区が急増しています。千葉県議選の投票率は前回の全国ワースト2位に続き今回は全国最低で、しかも初の3割台(37・01%)でした。
 前述したように、現在の地方行政は首長提案・行政施策が圧倒的に多くなっています。全国的にも無修正・全会一致で条例が成立している(「異議なし議会、半数の802自治体」毎日新聞調べ)。首長の判断・行政をチェックするのが議会の役割です。しかし首長寄りオール与党で「学芸会」をやっているわけですから、チェック機能の要を果たせません。投票率が低下するのは住民の意識と言うより、「議会」側の現状にあるのではないでしょうか。「地方議会」への無関心層が増えて、民主主義の原点である選挙が機能しなくなったら、日本はどうなるのでしょうか。
  今月からこのコラム子のメンバーに加わることになりました。 幾つかの視点から今回の地方選挙を整理して みました。
                               今月のコラム担当 Y‐Takeuchi