最近、特に気になる言葉がある。それは、新聞紙上などにもしばしば出てくる「65歳以上の高齢者」と言う表現である。厚生省などのページから調べてみると、高齢者の明確な定義はないが、基準となりうるものがあった。
それは1956年に、国際連合が65歳以上を「高齢者」とし、 全人口に対する65歳以上人口の比率を「高齢化率」としたことから、 「高齢者」を65歳以上とすることが一般化したと言われているようだ。その辺が発端で、日本でも「老年人口」を65歳以上を対象としていることや、つい最近まで老齢年金の支給年齢は60歳であったものが65歳以上と変更された事実も関係しているものと思われる。
現代は昔に比べて平均寿命が延びており、 その昔は55歳、60歳を現役引退の年齢としていたものが、今は65歳になったという経緯から、「65歳は年寄りなんだよ」と位置づけているようにも思える。よく言われることに、国内人口の高齢化率の上昇の問題がある。都道府県や市町村単位でも比較されることが多い。しかし、こんなものは比較してみたところで意味をなさないものと私は考える。
高齢化が進む根本的な背景には、「少子化」という絶対的な世情の変化がある。この少子化問題が解決されない限り、日本国内の高齢化は益々その比率を高めることになる。なぜ少子化が進むのかを思えば、社会情勢一般の不安定ということに突きあたる。雇用が保障されず、派遣社員や非正規社員という身分では、いつクビにされてもおかしくない。このような状態では、結婚して安定した家庭を築こうなどとは思わないのが、若い人たちの気持ちと察する。
いわゆる高齢化世代にある様々な友人・知人の家庭でも、30代はまだしも、40代でも結婚することなく親と同居というケースが非常に目立つ。これは男性も女性も同様だ。我が家でも三人娘のうち二人は子どもにも恵まれ、一見幸せそうに暮らしているが、末の娘は40歳を超えたが未だに独身で親と同居している。親と同居していることが結婚に繋がらない面もあるが、家を出たら即ホームレスになってしまうから、出るにも出られないのが現実の姿である。
昨年の12月に派遣先を解雇されてから、はや一年になる。本人は仕事をする意欲があって、派遣先を探したり、インターネットで調べたり、ハローワークに足しげく通っているが採用という段階に至らないままに、月日のみが過ぎていく。本人は焦っているだろうが、どうにもならない現実に直面したままだ。子ども好きであるから、結婚もして自分の子どもが欲しいだろうが、それもままならない。
私の身の回りの高齢者の家庭では、似たような話が山のようにある。これでは少子化に歯止めがかかる筈がない。言いかえれば、高齢化率は益々高まることになる。
余談になるが、いっとき「日本未来の党」の代表として注目を浴びた嘉田由紀子元滋賀県知事に、次のような逸話がある。※女性セブン2012年12月20日号
大学院時代から研究まっしぐらで、滋賀県琵琶湖研究所職員や京都精華大学教授などを歴任。この間、子供たちを夫の両親に預けて研究に没頭、子供と顔を合わせるのは週末だけという時期もあった。京都精華大学時代の教え子が嘉田知事の素顔を語る。
「すごくオープンで正直に何でも話してくれる方。学生のお母さん的存在で“嘉田ママ”と呼ばれていました。学生の恋愛話に首を突っ込み、『あの子とあの子、くっついて今どうなん?』なんて聞いたり、『彼女ができない』と相談した男子学生に『まずはひとり暮らししなきゃダメよ。だって連れ込めないじゃない!』とアドバイスしたことも」。
昔なら笑い話だったが、収入の減少により若者の親との同居率が上がり、未婚率は確実に上がっている昨今では、笑えない話と言えよう。
高齢者のとらえ方
ちよっと古いが、高齢者のとらえ方についての内閣府の調査結果を見てみよう。
内閣府が行った「高齢者の日常生活に関する意識調査」 平成16年(60歳以上を対象)
70歳以上=46.7%
75歳以上=19.7%
65歳以上=14.0%
内閣府が行った「年齢・加齢に対する考え方に関する意識調査」 平成15年(20歳以上を対象)
70歳以上=48.7%
65歳以上=18.5%
75歳以上=12.9%
※共に、何歳以上を高齢者と見てるかという問いに対する答えである。
上記調査を見ると、7割前後の人が70歳以上を高齢者と認識していることが分かる。 これは10年近くも前の調査だから、今では間違いなく75歳以上を高齢者と見ていると想定される。実際に、今の60代の方々は健康でパワフルな方が多いように感じているに違いない。
しかし、だからといって年金の受給開始年齢を 65歳よりも、もっと上の年齢からにしよう等とは考えてはいないようだ。
日野原重明先生も語る 高齢者定義の見直し
今年102歳を迎え、未だに現役で活躍する聖路加国際病院長の日野原重明氏は75歳以上を「新老人」と定義し、「高齢者だから」と内向きになるのではなく、それぞれのやり方で社会に貢献しようとする運動を続けている。
2000年に発足した「新老人の会」は現在、会員1万2千人を数え(24年4月4日付け記事)、3万人を目標としていると言う。ボランティアの方々のご協力を得てフェイスブックを開設し、そこからの情報で更に会員増強を図りたいと、記している。なお、このfacebookのページは現在では既に開設されている。
我々も高齢者だからと、しょぼくれてはおられない。
65歳は「高齢者」ではない
野田内閣のときに、国が65歳を一律に「高齢者」とする現行の定義の見直しに着手し、「高齢社会対策大綱」に反映される筈であった。近年元気に働くシニアが多くなり、高齢者をすべて「弱者」と見直す仕組みの改定を目指した。これは内閣の崩壊により消滅した。
しかし自民党内閣となっても、この活きている。内閣府のホームページから、その一部分を抜粋したものを示す。
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健康で活動できる間は自己責任に基づき、身の回りのことは自分で行うという「自己力」を高め、長い人生を活き活きと自立し、誇りを持って社会の支え手や担い手として活躍でき、支えが必要となった時でも尊厳のある生き方ができる社会の実現が重要である。全ての高齢者が、尊厳のある生き方ができるよう、これまでの人生65年を前提とした社会から脱却し、「人生90年時代」に対応した超高齢社会における基本的な考え方を以下で整理する。
(1)「高齢者」の捉え方の意識改革 〜65歳は高齢者か〜
「高齢者」は、支えが必要であるとする考え方や社会の在り様は、意欲と能力のある現役の65歳以上の者の実態から乖離しており、高齢者の意欲と能力を活用する上で阻害要因ともなっている。
また、65歳以上であっても社会の重要な支え手、担い手として活躍している人もいるなかで、これらの人を年齢によ一律に「支えられる人」と捉えることは、活躍している人や活躍したいと思っている人の誇りや尊厳を傷つけることにもなりかねない。
こうした認識と実態の乖離を解消し、社会の支え手となり続けるとともに、支えが必要となった時にも、周囲の支えにより可能な限り自立し、人間らしく生活できる尊厳のある生き方を実現させていくことが求められる。
高齢者の意欲や能力を最大限活かすためにも、「支えが必要な人」という高齢者像の固定観念を変え、意欲と能力のある65歳以上の者には支える側にまわってもらう意識改革が必要である。
このように、65歳以上の者の捉え方に対する国民の意識変革が不可欠であり、それに向けた啓発が必要である。
その際には、楽しく豊かで円熟した人生を送っているという、多様なロールモデルについての情報提供も重要である。一方、社会保障制度をはじめとする既存の各制度における施策の趣旨及び現在の取扱を踏まえ、国民生活や将来設計の安心の確保等を考慮して、検討は多角的な観点からすべきであり、引き続き中長期的課題として国民的議論を深め、合意形成をしていく必要がある。
(2)老後の安心を確保するための社会保障制度の確立 〜支え支えられる安心社会〜
社会保障制度を中心とする、公助と共助のあり方は、国民個人の人生設計に大きな影響を与えることから、人生設計の見直しを可能とする長期的な視点で制度改革を行うことが重要である。
社会保障制度は、国民の自立を支え、安心して生活ができる社会基盤を整備するという社会保障の原点に立ち返り、その本源的機能の復元と強化を図っていくことが求められている。格差の拡大等に対応し、所得の再分配機能の強化や未来世代を育てるための支出の拡大を通じて、全世代にわたる安心の確保を図り、かつ、国民一人ひとりの安心感を高めていくことが重要であり、「全世代対応型」の持続可能な社会保障制度を構築していくことが重要である。
内閣府 政策統括官(共生社会政策担当) Office for Policies on Cohesive Society, Cabinet Office,
Government of Japan
〒100-8970 東京都千代田区霞が関3-1-1 合同庁舎4号館4階 電話番号 03-5253-2111(大代表)
上記の如く、政府の中枢機関である内閣府政策統括官は述べている。真に理路整然と考え方も整理されている。一点の非の打ちどころも無いように見える。エリート官僚として、現在の日本の姿をしっかりと、客観的に分析しているようだ。
問題は、「整理された課題を如何に具現化していくか」。その一つにかかっている。それぞれの問題点を、どのように解決し、実現させるかにある。数十年後には、日本の人口が半減するとの試算もなされている。熟慮したうえは、決断と実行が待たれる。(C・W)
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