春の兆しが


 春の兆しが初めて現れる立春を迎えるというのに、毎日寒い日が続いている。私たちの季節感には、立春から始まり大寒で終わる二十四節気という暦があるが、一年を七十二等分した七十二候というものもある。

 『日本の七十二候を楽しむ(東方出版)』によると、おおよそ2月4日から8日ごろを「東風凍を解く(とうふうこおりをとく)」、川や湖の氷が解けだすころ。次に、おおよそ2月9日から13日ごろの「黄鶯?Zく(うぐいすなく)」鶯が鳴き声を響かせるころと続く。季節の出来事を細かく捉えた、それぞれの候の言い方となっている。

 春の兆しが感じられる頃には、何やらホワッとした気持ちになる。戦国時代に甲斐の虎と呼ばれ、武勇の人として知られる武田信玄もこんな漢詩を残している。

春山如笑(春山笑うが如し)

簷外風光分外新(簷外(えんがい)の風光分外新たなり)

捲簾山色悩吟身(簾を捲いて山色吟味を悩ます)

孱顔亦有蛾眉趣(孱(さん)顔も亦蛾眉の趣き有り)

一笑靄然如美人(一笑あい然として美人の如し)

yamakei onlineサイトの南アルプス東岳写真を引用


 軒外の春の風景は、格別に新鮮だ。簾を上げると山の趣は、詩を吟ずる私を悩ませる。山の険しさにも、美人の眉を連想する。それはにっこりと和やかに笑っている、美しい女性のようだ。という意味の詩だが、居城であった躑躅ケ崎館で南アルプスや八ヶ岳を眺めて作ったのかもしれない。春の山々はなにやら艶めかしい感じがしないでもない。春になるのは、誰しも心がさわぎワクワクとした待ち遠しいものだ。 

 
うむっさん