チンタオ(中国)からのたより Part6



 
 
「私の日記(温水タンクの修理屋さん)」

この部屋に引っ越す前に温水タンクの水漏れを発見。すぐ大家さんに修理を依頼しておいた。これがないとシャワーも浴びられない。

給湯設備のない安アパートの必需品だ。修理に4、5日かかるというのでじっと我慢の毎日だ。

やっと修理屋さんが二人がかりでタンクを運んできた。台所の壁の上のほうに取り付ける。つなぎ目の水漏れ箇所を半田付けしてある。

下手くそな半田付けだ。日本の小学生並みだ。でもいいんだ。水が漏れなければいいんだよ。見掛けなんかどうでもいいんだよな。

「このレバーを上にあげればタンクに水が入るんだ。水がいっぱいにならないと蛇口からは水が出ないよ。ほらな」

「ふーん」

「水がいっぱいになるまでは電気を入れたらダメだよ」

「うん、わかった」

水がいっぱいになるまで、少し時間がかかりそうだ。

「あんた、独りで住んでいるのかい?」

「そうだよ」

「奥さんは来ないのかい?」

「うん、仕事があるからな。でも、そのうち来るだろ」                             温水タンク

「そうかい。青島はいいところだから、きっと気に入ると思うよ」

「そうだな」

「あんた、いくつ?」

「73だよ。あんたは?」

「38だ」

「えー?」

まだ30代?てっきり50過ぎのおっさんかと思ったよ。

「うちの親父も73だ」

「ほう、そうかい。一様(同じ)だな」

「うん、一様大だ」

あ、そうか。同じ大きさだから、(大)をつけるのか。覚えたぞ。すぐ忘れるけど。

「仕事は何してるんだい?」

「天津の大学で日本語を教えていたんだ」

「ほう、日本語の先生かい。じゃ、オレたちにも教えてくれよ」

「月謝、高いよ」

「いくらだい。700元かい?800元かい?だいじょうぶ、払うよ」

勝手に値段を決めるな!

「あんたの年じゃもう無理だよ。日本語は難しいんだよ」

「そうかい。(相棒に)おい、オレたちにゃもう無理だってよ」

「そうだろ。オレもそう思うよ」

「じゃ、うちの娘はどうだい。今、7歳なんだ」

「うーん、むにゃむにゃ」

「7歳ならいいだろ。な」

「うーん、むにゃむにゃ」

どこまで本気なんだかわからない。

タンクの水がいっぱいになったらしい。若いのが説明する。

「ほら、蛇口を開けると水が出るだろ。こうなればタンクに水がいっぱいになったというわけさ。水がいっぱいになったら電気を入れるんだ。

あとは何もしなくていいんだよ」

ほー、全自動か、なかなかの優れものだな。

「水が温まるまでどのくらいかかるんだい?」

「一時間だ。一時間経てば熱いお湯が出るよ」

「わかった」

おっさんのほうは携帯電話をピコピコ。会社にでも掛けているのかと思ったら、相手は奥さんみたいだ。

「今、八大関で仕事してるんだ。おもしろい日本人がいるから来ないか」

おい、おい、よせよ。見世物じゃないんだぜ。おもしろいのはお前さんのほうだろ?

「え?何?忙しい?ダメか、残念だな。もうすぐ仕事終わるから、そしたら帰るよ」

あー、よかった。家族ぐるみのお付き合いになるのかと思ったよ。

「何か紙ないか?オレの電話番号を教えるから」

「これでいいかい?」

「うん、いいよ。えーと、こうだな。これだ。これがオレの名前だ。これが電話番号だ」

「ほう、張○○さんかい」

「うん、何でも困ったことがあったら電話してくれ。オレたち友達だからな」

「わかった、ありがとよ」

「じゃあな」

結構いいやつ、いや、お方なんだな。

さあ、シャワーを浴びるぞ。しばらく浴びてないから、体がむずむずするよ。

                                                    青島市   足立吉弘