このページは、鎌ケ谷市内に在住されデザイン関係のお仕事をされている方ですが、日常生活の中で感じたことなどをA4サイズに収まる程度の内容で「KA MA GA YA 「A4」 sketchbook 」として不定期ですが継続して投稿していただく予定です。読者の方で、この手紙を読まれて何か感想・ご意見などありましたら、遠慮なく電子メールなどで当NPO法人事務局(kais_office@kamagaya-info.com)までお便りください。読者の皆さんのお便りは、投稿者の方にお伝えしますので、ご本人への励みにもなると思います。


きまぐれ連載・・・その1

『親の介護を通じて知り合った医師との交流・医師から依頼されたクリニック開業時の広告媒体作成で感じたこと。』


拝啓 クリニックの院長さま。

 初めてお手紙を差し上げる失礼をお許しください。
私は父母と妻そして息子(高2)と5人で暮らしています。
先日のこと、家族全員の持っている診察券をテーブルの上に並べてみました。
最近の5年間に診察を受けたものだけで、父は7枚、母が12枚、私5枚、妻4枚、息子枚、合計31枚(使用中7枚)でした。
こんなにもたくさんの医療機関や、先生方のお世話になっていることに驚いています。
さらに2ヶ月前から、父(78歳)が介護5級と認定され、現在は在宅療養中です。
 
 お陰様で、先生の往診、ケアマネージャーの介護サービス計画による、介護・入浴介護・看護・リハビリテーションなど、
母を中心とした家族の力だけではどうにもならなかった介護が、キメ細やかな在宅介護支援サービスに支えられて、毎日がおだやかに安心感をもって暮らしていかれることに、心から深く感謝しております。
 
 申し遅れましたが、私は30年にわたって、広告代理店などと力をあわせ、企業のCI計画やシンボルマークの制作、商品開発などマーケティングデータを基にして、企業(商品)と生活者を結びつける接着剤として働いてまいりました。
5年程前に、親しくさせていただいている先生の、独立開業のイメージ作りをお手伝いしたことから、医療関係の分野に自然と興味が湧いて参りました。
先生の熟練された診療技術と開院のヴィジョン、そしてなによりも患者(お客様)を温かく包み込むように患者に接する人柄に、先生には人の命を慈しむ愛があるのだ…と感激していました。
 
 しかしながら、これらのことは、すべて目に見えるモノではありません。
先生のクリニックとお客様を結びつけるコミュニケーターとして、この「見えないモノ」をテーマに、ご満足いただけるデザインを完成させなければいけません。
先生はご自身のクリニックのことだけに、ずーと考えていらっしゃったようで、はにかみながら、私に手描きの3つの案を見せてくださいました。
その中にはご自分の似顔絵がありました、あまり似てないのですが、ほのぼのとして、いかにも先生らしいイラストでしたので、少し手を加えれば、なんとか成立させることができるかも知れない…と思いましたが、私共の経験から、常にユーザー(この場合は患者)にどう受け止められるのだろうか、企業や商品を選ぶのは、いつだってお客様なのだという視点を大切にしなければ、独りよがりの身勝手なモノになってしまうのではないか、と心配になってきました。
 
そこで、生意気に思われるかも知れませんが…と、こんなお話をさせていただきました。
先生は自信をもって開業されるまでに、多くの知識を学ばれ、数々の経験を積まれてこられました。
しかし名医と称賛される方であっても、初めから名医ではなかった訳ですから。
小さないくつかの失敗からたくさんのことを学んで、実力をつけてこられたに違いありません。
と言う私自身、多くの先輩から叱られたり、手ほどきを受けて何んとか他人に評価され、自分なりに納得できるものが創り出せるようになりました。
ですから、安心して私を[視覚伝達科]の専門医に任命してください!と申し上げたところ、前もって私共の作品集をご覧になっていた先生は、笑いながらお任せしますとおっしゃいました。


 10日ほどいただいて5案提案しました。
コンセプト(立案主旨)は患者さんの気持ちを代弁いたしました。
「誰でも医者に行くのは楽しいことではありません。」
だから明るいクリニックをイメージさせましょう。
先生に診察していただいた満足感と、治癒したときの晴れやかな気持ちをデザインしたつもりです。
静かに眺めていた先生は、どうにも決めかねた様子で、私を車に乗せて行きつけの寿司屋へ行き、カウンターのうえに5案をズラッと並べて、ご主人、女将さん、板前さん、たまたま居合わせた数人のお客様に、どお?どれがいい?と嬉しそうに訊ねました。
きっと先日お話させていただいた、自己満足ではいけない、クリニックを選ぶのはお客様(患者)なのだから。とお伝えしたことが心にあったに違いありません。
それから3日後、スタッフの方々や御家族とも相談されて、私がいちばん選んでほしかった案が、正式に決まったと連絡をいただきました。
その後2年経ったころ、診察券がなくなりそうだからと電話をいただき、ご繁盛なさっていることが、嬉しくてたまらない思いでした。
 
 これまで携わってきた広告デザインの仕事は、企業の組織が大きすぎて全体が見えないだけでなく、営業部・商品企画部・販売促進部・宣伝部などに窓口が別れていて、それぞれの部所で決められたことが役員会にかけられ、その後さらに検討・修正が加えられます。
そのため最終的な決定権がどこに、誰にあるのかさえ分からなくなって、責任の所在さえはっきりしないこともあります。仕事に振り回されてしまう私共からすると、合議制によって、責任を誰もとらないで済むようにしているのかな?と、意地悪く考
えてしまいます。
 
 クリニックは院長が社長であり、決定権をもった統括責任者でもあります。
直接院長にお話を伺いながらイメージを築きあげることは、制作者にとって心からの喜びです
そして、院のイメージを決めるスタッフとの協議は、案の絞り込みの過程において、院長のヴィジョンをスタッフに浸透させ、院内の意志統一をはかり、積極的運営に効果を発揮します。
 
 コミュニケーションの基本は、1人と1人の人間です。
1人の患者さんには、家族や友人また近隣の方々と、たくさんの人の繋がりがあります。
ご来院されるひとりひとりに好印象を持たれて、満足していただけたなら……あの医院は、あの先生はと、喜びの声が“口コミ”となって評判を築いていきます。
 ドクターやクリニックを選ぶのは患者である私達です。
このクリニックが近くにあってよかった、あの先生に診てもらって本当によかった、という利用者の声が、継続的な繁栄を約束するものだと考えています。

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●今後の医療の在り方について、情報誌にこんな問題点が載っていました。
1・高齢少子化による医療財源の不足。
2・医療法改正や診療報酬の改定。
3・社会の成熟化に伴う患者ニーズの多様化。
4・医療はすでに、経験則から科学則で行われる時代。
5・権威、権力に対する不信、医療に対する不信の現われ。

 このような現状変化に対して、新たな信頼を獲得するために、
病院はどのように変わらなければならないかを考える必要がある。
患者主体の医療の在り方を具体化しないと、生き残りが難かしい。
そのためには、医療の質とスタッフを充実させ、
患者や職員に院内の快適さを提供し、きめ細やかなコミュニケーションのうえで、患者の満足の実現をしなければならない。
言葉や態度もクリニックのサービスの品質です。


 毎日利用する、地下鉄・JR・私鉄のホームには、病院やクリニックの看板がたくさん並んでいます。
院名につづいて診療科目・院長名・診療時間・所在地・電話番号が、無個性に表記されています。
法律の規制によって、ウソのように早く治る○○医院、安くて親切○○クリニック、美しいスタッフがいっぱいの○○病院と宣伝する訳にはいきませんが、だからといってこのままでいいのでしょうか。
明るく健康な人間生活を支える、大切な医療機関のサインデザインなのに、院長のヴィジョンやクリニックのメッセージを伝えることもなく、お客様とのコミュニケーションを計るための、大切な媒体として機能していないのはなぜでしょうか?
街や駅が新しく生まれ変わり、医療技術の格段の進歩にもかかわらず、旧態依然と、時代の流れから取り残された醜い姿を晒しています。
 
 私達には痛々しくさえ感じられます。どうして爽やかで明るい希望を印象づけ、看板をご覧になるお客さまの心をひとときでも和ませる、楽しい表現が見当たらないのでしょうか、
専門分野の医療技術に自信があるから…院名と診療科目さえ明記しておけば、今までと同じように患者は集まってくるという、自信の現われなのでしょうか、それともあまり深く考えないで、看板屋さんに任せてしまった結果かもしれません。

 しかしながら医療機関は、群雄割拠の戦国時代に入っています。
院長の顔やヴィジョンがみんな違うように、院長の数だけクリニックの個性がある筈です。
駅の看板、表示サイン、診察券、紹介パンフレット、医院の内外装に至るまで、院とお客様を結び付けるコミュニケーションの大切な手段として、真剣な取り組みが今こそ求められているのではないでしょうか。
 私見でございますが、人はおいしそうだとか良さそうだというイメージ(期待感)によって行動するものだと思います。
近くて便利だから、以前から良く知っている先生だから、知人から紹介されたので、という理由を除けば、クリニックさえ例外ではありません。
つい、軽く考えてしまいがちなイメージ〔評判〕を、築き上げ浸透させることが、クリニックの繁栄を確実にする力になると信じています。

◎お陰様で開業やリニューアルを、お手伝いさせて頂いた先生方のご紹介で、いくつかのクリニックや医療施設のCIを手掛けることができました。
こうして自然なカタチで、先生から先生へと、少しずつ人の縁が拡がっていることが、「Drとお客様の接着剤」を目指す私共にとって、何よりも嬉しいことです。
先生とクリニックの心情的なファンクラブが形成されるように、院のP R 活動に微力ながら全力を尽したいと思います。

敬具

                                                        ペンネーム:エト・セト・ラ