上海紀行
PART5

ライター:千遥

   
北京ダッグをご馳走になる

中国人の王小姐、上海滞在は常連の石川先生に加え「上海新米人(しんまいびと)」の我々2人、4人連れ立って眩しいほどのネオン街を歩む。当たり前だが、前夜の何となく侘しい食堂とはまるで違う。この辺りの店は、上海人もかなりの上級クラスの人しかこられないようだ。店の名前は「全衆?徳」といい、「中国北京ダッグ全衆?徳集団(グループ)」の上海店である。

帰国後に昨年学習した教科書を何気なく見ていたら、「beijing quan2 ju4 de2 kaoya dian4」店の名前とイラストが描かれているのを発見した。まさに上海店と同じ店構えであった。 店は中心街のHUAI HAI(海)中路に面しており、ちょうど茂名路と瑞金路との間になる。「路」は、日本でいう「並木通り」や「晴海通り」などの「通り」の意味である。

上海2日目は、この高級料理店での会食となった。中華料理はやはり多くの人たちがテーブルを囲んで、ワイワイガヤガヤと飲んだり食べたりするのが一番ふさわしい。上海人も6、7人できているグループが多い。広い店内も一杯だ。結構金持ちがいるものである。メニューの分らぬ我々はすべて王さんたちにお任せ。テーブル一杯に運ばれた料理を、それぞれが勝手に手を伸ばして食べる。

何を食べても美味しい。だが今になると、あのとき一体何を食べたのか定には覚えていない。上海蟹が有名だけど、11月までが旬であることで時期的には、もう間に合わなかった。食事の習慣として、中国人は日本人のように料理を小皿に少しずつ取って食べるようなことはしない。好きなものを勝手に箸でとって、次々に、ドンドン口に放り込む。生で食べる習慣は中国人には無いから、日本人のような気配りはまったく不要でる。


北京ダッグの店

箸を使う民族は少ないが、中国の箸は一般的に日本のものよりは遥かに長く、太くて円錐形をしている。少し前までは象牙の箸だったらしいが、今は、だいたいは木製で、普通の食堂ではその箸を洗って何度でも使う(よう)だから、塗料がはげたような古びた箸も特に珍しくはない。でも、さすがにちょっとランクが上がると日本式の割り箸になることが多くなっているそうだ。

北京ダッグは通常、注文したお客の目に付くところでコックによって料理される。王さんが「ペーチンカオヤ(北京ダック)だよ!」と教えてくれた。丸ごと持ってきたダッグも食べるところは表面に近い一部だけである。
そこしか食べないから高いのか? もったいない話だ。残った大半の肉はどうするのか? 何故もっと食べないのか、うっかり聞くのを忘れてしまった。まあ、あとで在日の中国人朋友に聞いてみることにしよう


南京路の女性たち

このような店でのお茶のサービスが面白い。お茶は茶椀に茶の葉や菊の花などが入れてあり、そこに熱湯を注ぐ。そして蓋をしておき、味がしみてきたころに蓋を少しずらして飲む。葉を一緒に飲み込まないためである。

ボーイがお湯の補充にやってくる。やかん?に1メートルを超える円筒形の棒?がついていて、遠くのお客にも巧みにお湯を注ぐ。茶椀一杯になる直前にヒョイと棒を持ち上げる。その仕草が面白いのと、絶対にこぼさない技術は見事なものである。これは遠くにいるお客にも満遍なくサービスするようにとの、先人たちの知恵なのであろう。

王小姐

もう一つ注目すべきことがあった。サービスする女性が、皇帝の侍女のような煌びやかな衣装を着用していたことだ。それだけを見たら、時代錯誤に陥ってしまう。ここではシャッターを押す機会を逃してしまったのが残念であった。

カメラなどの貴重品は盗まれないように、と席から遠くに置いてあった。通路側ではなく、奥の席にみな置くようにとの石川氏の指示だったのだ。それで取り出すタイミングがなかった。この後に、このようなレベルの店には行っていないから、最初で最後の晩餐となってしまったのである。

豪華版の食事ではあったが、日本円に換算すればちょっと気の利いた居酒屋程度のお値段とのお話だった。いずれにしても、貴重な体験と共に大いなるご馳走に対して感謝しなければならない。
                    (続く)



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